諦める?
目的を諦めないために手段を諦める
元陸上400メートルハードルの為末大さんの言葉。
一般的に、「諦める」という言葉にはネガティブな印象を持つ人が多いと思います。
この言葉は、『諦める力』という為末さんの著書にあるものです。
本の内容も素晴らしいと思いますが、
個人的には、よりこの言葉にピンと来るものがあります。
その意味を端的に表現すると、
固執している間違った手段を諦めて、目的のためにもっと正しい手段を選択する
ということです。
文章にしてしまうとひどく当たり前に思えることですが、
人間、今現在自分の一所懸命やっていることが間違っている
(または向いていない。何れにしても選択として間違っている)
と認めることは、中々に困難です。
間違いを認められたとしても、その時点では、
何がもっと正しい選択なのかを知ることは更にまた困難です。
正しかったかどうかの結果は、当然ずっと後になってからでないと分かりません。
僕自身、この2年間はずっとこの過程の中にあったと言えます。
そして、現在地点こそだいぶ変わりましたが、
まだ過程の中にいることには変わりはありません。
大海のような
と、よく形容されるインド音楽ですが、
それは現実にその通りです。
その中を、タブラで現実的に泳ぎ渡っていく必要があるわけです。
歴史の中で、偉大な音楽家たちが、
広く深く豊かに広げてきた大海の
一番深く波の高いところで更に身を削り凌ぎを削っているところに、
市民プールで泳ぎ方を覚えただけの人間が行くのはどう考えても無謀です。
そうではなく、まず海での泳ぎ方を覚えること。
当たり前といえば当たり前過ぎる話ですが、
海で泳ぐことと、プールで泳ぐことはそもそもまったく別物です。
プールでも溺れることはあっても、潮に流され遭難することも、
嵐やサメに襲われることもありません。
市民プールで、いくら大海原を渡る夢を見ていても、
また、いくら安全なプールで上手く泳げるようになってみても、
海を泳ぎ渡れるようには一生なれないのです。
インド音楽は、市民プールではなく大海であり、
道路でいえば自動車教習所ではなく、F1サーキットのようなものです。
どういうことかというと、
はじめからやり方が違う。
そもそも、そういうことです。
先の為末さんの本の中でも、競技においては
世界を目指すのと、日本一を目指すのとでは、はじめからやり方が違うと。
チョーさんの
昨年の来日前に、こんな記事を書いていました。
今からすれば、思い上がりも大概にしろと言いたくなるような意識が見て取れます。。
「知らない」とは恐ろしいことですが、
「知らないまま」でいることはもっともっと恐ろしいことです。
はじめから泳ぎ方を「知っている」人間はいない。
でも、泳ぎ方を「知らない」まま泳ぎだすのは間違っている。
今年6月のチョーさんの来日で、ようやく海での基本的な泳ぎ方を教わり、
それはつまり「はじめから違う」やり方だったのです。
記事『またタブラに出会えた』にも書いている、
チョーさんから学んだことこそ
目的を諦めないために手段を諦める
目的のために、より正しい選択をする
ことそのものでした。
9月には、
大海の真ん中に向けて全速力で泳いでいるような
若手気鋭のサロード奏者・ディプトニル来日公演があります。
チョーさんから3ヶ月
とんでもないことにも思えますが、
そこに環境と目標を合わせていく設定をしたことと、
そこへ向かう現実的な手段を掴んだことで、
淡々とした道が目の前にあるだけのようにも見え方が変わってきています。
来日公演に向けて
ディプトニルとのコミュニケーションも取れてきています。
彼の背景にあるインド音楽についても、徐々にご紹介していきたいと思います。
【出演】ディプトニル・バッタチャルジー(サロード)
指原一登(タブラ)
【時間】開場 14:30 開演 15:00
【場所】マスミ スペースMURO・大塚 東京都豊島区巣鴨4丁目5-2
【料金】予約 3000円 当日 3500円 ペア 5000円(2名様料金 要予約)
ディプトニル・バッタチャルジー:サロード奏者
1990年生まれ。インド、コルカタ出身。音楽家の家庭に生まれる。
幼少より著名なサロード奏者Prof. Dhyanesh Khanの弟子である父Sri Ashim Bhattacharjeeにサロードを習い始める。最年少で、現代インド音楽を形作った最も有名なインド音楽家、故Ud. Ali Akbar Khanの弟子になる 。
現在もUd. Ali Akbar Khanの長男であるサロードの巨匠Ud. Aashish Khan、娘Smt.Ameena Perera、Sri Alam Khan、各氏のもとで研鑽を積んでいる。
スールナンダン・バラティからスールマニ賞を受賞。オールインディアレディオにゲストパフォーマーとして出演。Ud. Aashish Khanとも共演するなどインド国内を中心に精力的に演奏活動をしている。今後の更なる活躍が期待される若手演奏家。2016年9月初来日公演。